BeneDict 地球歴史館

BeneDict 地球歴史館
menu

週刊スモールトーク (第107話) 太陽光発電と無線送電

カテゴリ : 科学

2008.05.16

太陽光発電と無線送電

■化石燃料の終焉

歴史は新しいページがめくられようとしている。地球環境を破壊する「化石燃料」のページから、クリーンでフリーのElectricのページへ。文明のテクノロジーは、「情報」と「動力」の両輪でささえられている。情報は人間の頭脳を、動力は人間の肉体を、それぞれ増幅する。いわば、機械仕掛けの増幅器。たとえば、ウェブは自分が望む情報を、世界中のサイトから一瞬で捜し出してくれる。1000年前の写本を思えば、まるで魔法だが、動力の世界でも魔法が生まれつつある。クリーンでタダ、しかも無限のエネルギー

1908年、アメリカのフォード社から「T型フォード」が発売された。T型フォードは実用一点張りのなんの面白みもない車だったが、10年後、アメリカのシェアの半分を占めた。1機種でシェア50%?今では考えられない独占である。こうして、T型フォードは、ライバルのガソリン自動車だけでなく、蒸気自動車や電気自動車も駆逐した。

ところが、ガソリン自動車には重大な欠陥があった。ここに恐ろしいデータがある。「ガソリン車が燃料タンク一杯分走ると、100kgの二酸化炭素をまき散らす」メタボな大男一人分の体重だが、これに世界中の自動車の数をかけたらどうなるか?こんなとんでもない量の二酸化炭素が、日々、大気中に放出されているのだ。地球温暖化の原因になっているというのも、あながち、デタラメではないだろう。さらに、マネーゲームによる原油価格の暴騰。自動車は、環境を破壊するだけでなく、消費者に理不尽な代金までせびっているのだ。ドライブなら我慢すればいいが、通勤や輸送はそうはいかない。やめれば、食べていけなくなる。

そんな閉塞感を打ち破ったのが「100%Electric」テスラロードスターだった。プリウスのようなハイブリッドでも、液体燃料で走る燃料電池車でもなく、二次電池とモーターで走る完全無欠の電気自動車だ。しかも、家で充電できるので、太陽光発電と併用すれば、燃料代はタダ。「NoOil!Clean&Free!」いい響きだ。電気自動車は、カジノ金融が生み出した石油帝国の圧政から、われわれを解放してくれるだろう。

■電池とは

もちろん、何事もいいことづくめとはいかない。電気自動車にも欠点はある。バッテリーの容量だ。人気のない山道で電池切れ・・・ではシャレにならない。現時点で、ガソリン車なみの走行距離を実現している電気自動車はない。自動車どころか、携帯電話でさえ、我々を電池切れで悩ませている。もっと、長持ちする電池はないものか?そこで、電池について整理してみよう。まず、電池は大きく3つに分類される。

1.一次電池

一度使い切ればおしまい。たとえば、乾電池。一見、不便そうだが、充電式電池にくらべ軽いし、充電も不要。また、どこでも売っているので、電池切れであわてることもない。高くつくのが難点だが、けっこう使い勝手がある。

2.二次電池

一次電池との違いは、充電が可能なこと。ただ、充電さえすれば、半永久的に使えるわけではない。たとえば、ソーラー腕時計は太陽光を電気に変換し、二次電池に充電する。そのため、「電池交換不要」をうたっているが、電池自体に寿命があることに注意が必要だ。寿命は、環境にもよるが、5年から10年というところ。ところが、一次電池の腕時計で10年もつものもある。どうせ10年で交換するなら、構造がシンプルで軽い一次電池のほうがいい。

一方、電力をばか食いするデバイスなら、二次電池しかない。たとえば、ノートパソコン。大量の乾電池を1時間ごとに使い捨てしていれば、人格を疑われるだろう。燃料電池と一次電池と二次電池は電気を蓄えるだけが、燃料電池は電気をつくりだすことができる。一次電池と二次電池とは別物と考えほうがいいだろう。原理は、中学校で習う電気分解の実験を思い出すとはやい。水に電流を流すと、酸素と水素が得られる。逆に、酸素と水素を化合すると、電気が流れる、これが燃料電池だ。

かつて、電気自動車で、最も期待されたのが燃料電池車だった。ところが、今では見る影もない。こんな落ち目になったのは、製造コストと、燃料電池スタンドの問題から。燃料電池は電気をつくるので、機構が複雑で、そのぶん値が張る。それに近々、燃料電池スタンドが、ガソリンスタンド並に普及するとは思えない。一方、二次電池なら家庭でも充電できるので、補給スタンドは不要だし、太陽光発電を併用すれば、燃料代はタダ。ということで、燃料電池は風前の灯火である。

■太陽光発電+充電池

電気エネルギーを利用する「電動力文明」には素晴らしい未来が待っている。いや、もう始まっていると言ったほうがいいだろう。たとえば、オール電化。火事の原因になる火を一切使わず、ガス漏れやガス爆発の危険もない。高齢者のいる家庭では、重宝するだろう。コスト面でも有利だ。石油の暴騰が一番の理由だが、電気料金の安い夜間にお湯を沸かすのがミソ。化石燃料は、あらゆる場所で、あらゆる用途で、存在価値を失いつつある。

2007年12月、日本政府は、地球温暖化対策の一環として、太陽光発電の普及を促進する方針を発表した。太陽光発電の実体は複数の太陽電池からなる太陽光パネル。政府は、2030年までに、一般家庭への太陽光パネル設置を、現在の40万戸から1400万戸に拡大するという。1400万戸は、全世帯の約3割、つまり、3件に1件が太陽光発電になるわけだ。現在、標準的な3.7kwの太陽光パネルを導入した場合、4人家族の消費電力がほぼまかなえる(電気料はタダ)。

さらに、太陽光発電は、製造や輸送のプロセスをのぞけば、二酸化炭素の排出はゼロ。つまり、太陽光発電は地球温暖化対策の真打ちと言っていいだろう。ただ問題もある。太陽が沈んだ後は使えない。

ところが、2008年2月28日、この問題を解決する商品が発表された。シャープ、大和ハウス、大日本印刷が提携し、「住宅用充電池」を共同開発するという。3社が目指すのは、18kwh分を充電できるリチウムイオン電池。一般家庭の平均的な電力使用量は、1日12kwhなので、丸一日分が充電できる。昼間に充電した電力を、夜間使えば、電気代はゼロ!量産は2009年から始まり、価格は1台50万円以下を目指すという。太陽光パネルと合わせれば、それなりの金額になるが、腹立たしい石油にカネを払うよりマシ。

2006年度に、家庭が排出した二酸化炭素は1億6600万トン。国内の温暖化ガス排出量の12%をしめている。家庭の電力使用が、京都議定書で課された温暖化削減目標の足かせになっているのは確かだ。すべての家庭が、「太陽光発電+住宅用充電池」を導入すれば、地球温暖化は劇的に改善するだろう。日本には、太陽光発電のもっと壮大な計画もある。太陽電池と超伝導ケーブルの製造技術では、日本は世界のトップレベルにあるが、この2つを融合したシステムである。まず、10万kwの発電が可能な2.7km×0.5kmの巨大な太陽光発電パネルを砂漠地帯に設置する。それを、伝送損失ゼロ(理論上)の超伝導ケーブルで、近郊の都市に送電する(日経ビジネス2007/12/3)。単純計算では、27,000世帯の電力をまかなえるという。素晴らしい計画だ。ここでも、「NoOil!Clean&Free!

■テスラの夢

20世紀初頭の電気工学のカリスマ、ニコラ・テスラは驚くべきテクノロジーを夢見ていた。「世界システム」、なんとも大胆不敵なネーミングだが、実体はそれを凌駕していた。電力を、地球上のあらゆる場所に、無線で供給するというのだ。原理はまるでSF。まず、非常に長い波長をもつ定常波を地球の表面に発生させ、その定常波に電力をのせて、地球のあらゆる場所に送電する!?ここで、定常波とは、振幅(波の大きさ)、波長(1周期の波の長さ)、速さ(波が移動する速度)が同じで、進行方向が真逆の2つの波が、重なり合ってできる波である。

高校で物理を選択した人ならピンとくるだろうが、定常波は上下に振動しているだけで、移動しない。この定常波に電力をのせるというのが、テスラの「世界システム」だった。一見、妄想にもみえるが、テスラはこの装置を試作している。1899年、標高2000mにある町コロラドスプリングズに建設されたウォーデンクリフ・タワーだ。テスラは、このタワーから、電力と情報を送信する実験を行ったという。問題は実験が成功したかどうかだが、よくわからない(たぶん、失敗)。ところが、テスラ亡き後、シューマンという学者が、地球の地表と電離層との間に、極めて長い波長をもつ定常波を発見したという。もちろん、これで、テスラの理論が立証されたわけではないが。

■無線送電

ところが、2007年6月、驚くべきニュースが飛び込んできた。MIT(マサチューセッツ工科大学)のマリン・ソウリャチーチ助教授のチームが、電磁共振による無線送電に成功したというのだ。この実験では、2メートル離れた場所に無線送電し、電球を点灯させたという。

もし、本当なら、歴史的大発明だ。電気製品につきものの、あのわずらわしい電源ケーブルが不要になるから。じつは、無線送電はすでに実用化されている。たとえば、電動歯ブラシ。電動歯ブラシの充電器は、電磁誘導という原理を利用して、無線で送電し充電している。ところが、この方法は電磁エネルギーが拡散するため、伝送ロスが大きい。電磁波は指向性が低く、拡散しやすいからだ。とはいえ、指向性の高い粒子ビームやレーザーを使うわけにはいかない。ロスは少ないだろうが、身体に当たればただではすまない。先のMITチームが発明した方式は、このいずれとも違うようだ。「送信側と受信側を、同じ周波数で電磁共振させ、無線で送電する」そのため、

1.エネルギーの伝送効率が高い(送電ロスが小さい)。

2.送信側と受信側に障害物があっても送電できる(電力がすり抜ける?)。

また、この発明のキモは、「磁気的な共振を利用し、非放射電磁界という電力の送受信専用の空間を作る」にあるという。意味不明だが、どこかマニアックな響きがある。それはともかく、字面だけみれば、テスラの「世界システム」そのものではないか!この発明がホンモノであることを、心から願っている。文明を支える両輪は「情報」と「動力」であることはすでに述べた。20世紀の世界では、「情報は電気工学」、「動力は化石燃料と機械工学」という棲み分けがあった。ところが、21世紀には、電気工学が「動力(エネルギー)」を乗っ取る可能性がある。化石燃料&機械文明から電気文明へ、これが今起ころうとしているパラダイムシフトだ。

■電気文明から光文明へ

では、電気文明の次には来るのは?根拠はないが、たぶん、光。時期は、21世紀後半、ひょっとすると22世紀に入るかもしれない。光文明では、情報も動力も光を利用する。つまり、光で始まり光で終わる完全無欠の光テクノロジーだ。現在の太陽光発電は光を利用するが、電気に変換して使うので、光と電気のハイブリッド文明といえる。光文明の具体的なデバイスとしては、光モーターや光コンピュータがある。光モーターはすでに試作されており、電気を介さずに、光の力だけで回転する。もっとも、この方法では、実用的な力は得られないだろう。

一方、光コンピュータは並列処理の相性が良く、驚異的な高速処理が実現できるが、まだ試作段階。魅力的なテクノロジーだが、すべては概念の延長にある。とはいえ、そのうち工学部では、電気工学科にくわえて、光工学科も創設されるかもしれない。それを見届けることはできないだろうが。

by R.B

関連情報