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週刊スモールトーク (第55話) 核戦争後の世界(1)~古代核戦争~

カテゴリ : 戦争終末

2006.07.14

核戦争後の世界(1)~古代核戦争~

■古代核戦争

人類は、もう何度もやり直しているのかもしれない。我々現生人類(ホモ・サピエンス・サピエンス)は、今から10万年前、アフリカ大陸の南部に出現した。一方、現在確認されている最古の町は、トルコのコンヤ高原で発見されたチャタル・ヒュユク。すでに、灌漑農耕が行われ、司祭や職人のような専門職も存在したらしい。

この町が成立したのは紀元前7200年頃なので、わずか1万年で、人類は農耕から原子爆弾に到達したことになる。一方、地球上に人類が誕生して10万年が経つ。では、人類は9万年の間、毛皮のパンツで過ごしたのだろうか?これが「人類は何度もやり直している」の根拠である。

では、人類は文明を何度もやり直したとして、なぜそんな羽目に陥ったのか?ちまたに流布する仮説の1つが「古代の核戦争」。人類は農耕からスタートし、原子爆弾を造りだし、全面核戦争で文明は滅亡、その後、農耕からやり直した・・・このループを何度も繰り返しているというのだ。

念入りなことに、古代核戦争が起こった場所まで特定されている。古代インドのモヘンジョダロ、古代地下都市カッパドキア、古代シュメール都市等々。さらにもっと古い時代、つまり超古代にも核戦争があったという説もある。やはりトンデモ説か、と鼻で笑う前に、一度整理してみよう。この説の根拠として引き合いに出されるのが、世界3大叙事詩の一つインドの「マハーバーラタ」である。

1945年8月6日、広島に原子爆弾が投下された。この原爆の開発責任者オッペンハイマーは広島の惨状を知った後、TVカメラに向かってこう言った。
われは死神なり、世界の破壊者なり
この一節は、ヒンズー教最高の教典「バガヴァッド・ギーター(神の歌)」から引用されている。そして、バガヴァッド・ギーターは「マハーバーラタ」の一部を構成している。

オッペンハイマーは物理・化学・天文学に精通する学者だったが、語学でも並はずれた才能をしめた。様々な文学を原書で楽しんだといわれる。マハーバーラタもその一つ。じつは、そのマハーバーラタの中に、核戦争に酷似した描写がある。そこで、この一節を引用したのだろう。この一節を読み上げるオッペンハイマーの表情は、大量殺戮に手をかした懺悔の念からか、暗く陰鬱だった。

■マハーバーラタ

マハーバーラタは、紀元前400年頃から600年の間に成立した長大な物語である。ヒンドゥー教の重要な聖典の1つで、宗教的、哲学的意義も大きい。内容は、史実に口承伝説を織り交ぜたもので、サンスクリット語の韻を踏んだ32音節の対句10万あまりからなる。おそらく、歴史上最大の叙事詩だろう(※2)。

ストーリーは、クル一族の骨肉の争いを発端とする18日間の大戦争を描いている。機知に富んだエピソードも数多く挿入され、なかなか面白い。ギリシャ神話同様、人間の運命に重きを置いているが、宗教・哲学まで踏み込んでいるので、深みがある。また、12世紀、遠く離れたジャワでも翻訳されたが、この地域はインド文化の影響が大きかったからである。

さて、この物語のどこが「核戦争」なのか?山際素男翻訳「マハーバーラタ」(※1)から、それらしき部分を引用する。

アシュヴァッターマンは、その言葉に烈火の如く怒り、戦車の上で丁寧に口を漱ぎ(すすぎ)、煙のない炎のような輝きに満ちたアグネーヤ(火箭)をマントラとともに発射した。無数の矢は空を覆い炎に包まれアルジュナの頭上に落下した。

ラークシャサ、ピシャーチャたちは大声で騒ぎ立ち、不吉な風が巻き起こり、太陽は光を失った。大鴉(カラス)の群れはいたるところで啼(な)き騒ぎ、雲は雷鳴を轟かせ血の雨を降らせた。鳥も獣も聖者たちも心安まらず、天地は波立ち太陽は逆の方位に向かった。アグネーヤの力に恐れ戦(おのの)いた象やその他の生物は突然駆け出し、必至にその下から逃げ出そうとする。外界の水は熱せられ、水棲動物は熱に灼かれ暴れ回る。

一面の空から落下するアグネーヤ矢に灼き焦がされた将兵は、炎に包まれた樹木さながらに燃え上がり次々に倒れていった。象も馬も戦車も山火事に遭った樹々のように燃え、悲鳴を上げてのた打つ。それはまさにユガ(世界の時間)の終わりに一切を焼き尽くすサンヴァルタカの火のようであった。

たしかに、原爆が広島に投下された直後の様子に酷似している。1500年前、予備知識もなく、このようなリアルな描写が可能だろうか?そもそも、古代の神話は史実の伝承がベースで、荒唐無稽とは限らない。古代においても、このような部族間戦争はあったのだろうが、このような大量破壊兵器の描写は異様だ。また、マハーバーラタの他の翻訳本(※2)には、次のような一節がある。

ドローナはブラフマーストラ(宇宙原理を応用した飛行武器(アストラ)-おそらく現在の原子爆弾のような効力がある兵器)を発射しようとしてる時に、この言葉を聞いた。

翻訳者が「おそらく現在の原子爆弾のような効力がある兵器」と解説を加えているところが面白い。これが古代核戦争のトンデモ本ではなく、マハーバーラタの翻訳本であることに注意が必要だ。古代核戦争が本当にあったかどうかは別として、1500年前に大量破壊兵器の記述があるのは不思議である。古代核戦争はにわかには信じられないが、一笑に付すこともできない。また、この翻訳本(※2)には、さらに面白い描写もある。

彼が不真実の言葉を口から出したとたん、それまで常に地面から4インチ浮いて動き、決して地面につくことのなかったユディシュティラの戦車の車輪は、下に落ち地面に接触した。

反重力飛行体?描写が妙にリアルである。古代の核戦争に反重力飛行体、やはりインドは奥が深い。SFネタを捜すなら、古きを尋ねて新しきを知る、つまり、マハーバーラタ。

■現代の核戦争

1982年、スウェーデン科学アカデミーは全面核戦争のシナリオを公表した。この核戦争シナリオは、米ソ両国がもつ核の半数にあたる6000メガトンが使用されたという設定。現実にはミサイル基地も破壊されるため、すべてが使用されることはないからである(※3)。

ここで、「メガトン」とは、核兵器の爆発力を表す単位としてよく用いられる。1キロトンとは、TNT火薬1000トンに相当する爆発力で、1メガトンはその1000倍。広島に落とされた原子爆弾は15キロトンなので、6000メガトンは、広島型原子爆弾の40万個分になる。

全面核戦争では、このような莫大なエネルギーが短時間で放たれるのである。実際、6000メガトンが地球上で炸裂した場合、世界で7億5000万人が即死、3億4000万人が深刻な健康障害に陥ると予測されている。世界の総人口がまだ45億の時代である。

■核戦争の直接被害

また、この報告書(※3)には、さらに詳細なデータも載っている。東京や大阪のような大都市に落とされるのは、核弾頭は10メガトンと想定される。その内訳は、0.5メガトン爆弾10発、1メガトンの爆弾5発と、かなり具体的。これは広島に投下された原爆の700倍である。

報告書は被害予測もしている。まずは、ビルを倒壊させるような爆風、すべてを焼き尽くす熱風がおよぶ範囲。東京駅を中心にした場合、千葉県の野田市、浦安市、さいたまの川越市、東京の調布市の4点を結ぶ正方形になる。想像を絶する破壊力だ。もちろん、爆心地は気化蒸発し、中心部は1000~2000度の高温で、ガラスも金属もとける。遠く離れた場所でも、衣服は自然発火し、建物も燃える。

この10メガトンの凄まじい破壊力は、核実験でも証明されている。1954年3月1日、アメリカは、ビキニ環礁で15メガトンの水爆実験を行ったが、爆心地に直径3キロのクレーターができたという。

そして、核戦争の後には、死の灰が降ってくる。この灰に含まれる放射性ヨウ素が人間の甲状腺にたまり、甲状腺ガンを発症させる。1986年4月26日、ソ連のチェルノブイリ原子力発電所が爆発し、大量の放射性物質が大気中に放出された。

このとき、日本ではワカメ入りのウドンがブームになった。放射性ヨウ素が甲状腺に蓄積するのを、ワカメに含まれるヨードが防ぐのだとういう。ワカメが効くどうかはともかく、放射性ヨウ素の半減期はわずか8日。3ヶ月もすればほぼゼロになる。だが、やっかいな放射性物質もある。セシウム137だ。この放射性物質は身体に入ったが最後、一生体内に残留する。しかも半減期は30年、つまり、半減するまでに30年もかかる。

■核戦争の二次災害

核戦争後の二次災害は、死の灰だけではない。核爆発による熱エネルギーで、都市、森林、油田などが大火災を起こす。さらに、この大火災は、ファイヤーストーム現象と、コンフラグレイション現象をひきおこす。前者は熱風が垂直に吹き上げ、後者は水平方向に吹き荒れ、地上にあるものを焼き尽くす。このような状況では打つ手はない。現在の消防など無意味なことは容易に想像がつく。結局、燃えるに任せるしかないのだ。このような恐ろしい大火災は、何週間もつづくといわれる。

さらに、地球規模の大火災は大量の燃えカスを放出する。それが成層圏に達し、太陽光線の99%が遮断される。昼でも真っ暗になり、気温は20度から30度も下がる。「核の冬」の到来だ。

また、太陽光線が地上に届かないため、植物の光合成システムが破壊され、穀物が育たなくなる。こうして、飢餓がはじまる。結果、放射能と飢餓の相乗効果で人間の免疫力は低下し、深刻な伝染病が蔓延するだろう。14世紀、ヨーロッパで大流行したペストも、食糧不足による免疫力低下が遠因になっている。このとき、ヨーロッパの全人口の1/4~1/3が死亡したといわれる。

また、核爆発と森林火災によって大量の一酸化窒素も発生する。そして、燃えカス同様、成層圏に滞留し、オゾン層を破壊する。結果、太陽からの紫外線は増加し、ガンや白内障を引き起こす。

さらに、燃焼放出物に含まれる二酸化硫黄、窒素酸化物は、雲、霧、雨に混じって酸性雨となる。ph(ペーハー)は、酸性の度合いをしめす単位だが、7で中性で、値がそれより小さくなるほど酸性の度合いが増す。核爆発によって発生する酸性雨は、phが4以下の強い酸性となる。phが5以下では魚は住めないので、水圏にすむ魚類は死滅する。

やがて、上空に滞留し、太陽光に暖められた燃えカスが地上に降りてくる。それが、地表の雪や氷が溶かし、大陸規模な洪水を引き起こす。もはや、逃げも隠れもできない。こんな目に会うくらいなら、核爆発の最初の一撃で死んだほうがまし、と思う人もいるだろう。巨大隕石の地球衝突同様、生き残るほうが地獄だ。ふと、聖書の一節を思い出した。
「あなたは昼も夜もおびえ、明日の命も信じられなくなるだろう」

《つづく》

参考文献:
(※1)山際素男翻訳「マハーバーラタ」三十一書房
(※2)C・ラージャーゴーパーラーチャリ奈良毅田中嫺玉訳「マハーバーラタ」第三文明社
(※3)今村光一訳「核戦争の後アメリカ下院科学技術委員会リポートより」サンケイ出版

by R.B

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