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週刊スモールトーク (第88話) Windowsの歴史(1)~Vista対応のウソ~

カテゴリ : 科学

2007.03.31

Windowsの歴史(1)~Vista対応のウソ~

■マイクロソフトの流儀

かつて、マイクロソフト(Microsoft)は技術を追わない企業だった。お金になりそうなソフトに狙いを定め、「good enough(そこそこの品質)」で、とりあえず市場に出し、開発費を回収する。もし、バグがあれば、次のバージョンアップで有料で修正。もっとも、最近は「バグは無料で修正」が常識なので、マイクロソフトもそうしている。

マイクロソフトは、歴史上、最も成功した企業の1つだろう。1番の理由は、金にならない”コダワリの技術”に目もくれず、利益を一本釣りしたこと。ネットの掲示板などで、「MS(Microsoft)→M$」で揶揄されるのはそのためだ。別に、マイクロソフトを皮肉っているわけではない。それどころか、利潤追求が目的の民間企業にあって、1番の模範生だと尊敬している(やはり皮肉っている)。何の役に立つかわからないものに、誰も金を払いたくないだろう。

マイクロソフトのドル箱「Windows」は、いつも、見てくれでMac遅れをとっていた。ユーザーインターフェイス、聞こえの良いこの呪文で、Macオタクをうっとりさせ、Macはかろうじて絶滅をまぬがれていたのだ。だが、パソコンはしょせん道具、眺めるだけで満足するユーザーはいない(と思う)。ユーザーが大枚はたいてパソコンを購入するのは、ウェブブラウザー、メールソフト、ワープロ、ゲームソフトなど、アプリケーションソフトを利用するため。だから、OSはただの黒子に過ぎない。バージョンアップしても、今使っているソフトが動いてくれればそれでいい。そう、マイクロソフトは、互換性を保つため、涙ぐましい努力を続けてきた。見てくれや操作性や安定性を犠牲にしてまで。互換性を死守することがマイクロソフトの唯一の価値だったのだ(失礼)。

■技術のマイクロソフト?

ところが、新Windows「Vista」は違った。「Vista」は互換性を切り捨ててはいないが、斬りつけている。WindowsVistaは、「Windows3.1→Windows95→Windows98→WindowsXP→WindowsVista」というWindowsの長い歴史の中で、もっとも互換性が低い

日本有数のダウンロードサイト「窓の杜」では、毎日のように、WindowsVista対応ソフトの情報を更新している。互換性に問題がなければ、こんな情報を流す必要はない。互換性が低い原因ははっきりしている。WindowsVistaは派手な画面ばかりが強調されるが、じつは、深層部で大改造が行われている。フォルダやファイルへのアクセス管理や、ドライバー(ハードウェアを制御するプログラム)など、OSの心臓部に近い部分で。このような変更は、たいてい、互換を危うくする。

ところが、マイクロソフトは互換性を捨てても、新しい機能、新しい技術にこだわった。だから、WindowsVistaは、本来のマイクロソフトの製品ではない。ではなぜ、マイクロソフトは変身したのか?Windowsは、バグとセキュリティと価格を除けば、OSとしてほぼ完成の域にある。そのため、バージョンアップで気楽に金儲けできる時代ではなくなった。劇的に何かを変えない限り、バージョンアップビジネスは成り立たないわけだ。そこで、大改造に踏み切った、と言う説が有力である。一方、個人的には、たぶんそうだろうと思いつつも、少し温度差を感じている。

マイクロソフトは、お金は十分稼いだので、「技術のマイクロソフト」をPRしたかったのでは?公開された情報を見る限り、WindowsVistaの技術は革新的で、OSの王道を行くものばかり。たとえば、未来のデータ統合管理システム「WinFS」。いけてる先端技術だが、無理がたたって、実装に失敗してしまった。がらにもなく、技術にこだわったのが災いしたのだ(失礼)。そう言えば、昔、面白い記事を読んだことがある。

1996年3月21日付けで、マイクロソフトのビル・ゲイツ社長が日経新聞に送った電子メール。そこで、彼は、成功の秘訣を3つあげていたが、その1つを紹介しよう。

「ユーザーニーズに応えていればそれでいい、などという経営一般論に頼り切って、考えることを放棄してはならない」

ん~、マイクロソフトの創業者の”熱い”想いが、10年経って、突然起動した?(失敗に終わったけど)

■WindowsVistaの正体

WindowsVistaは、5年未来のOSだ。パソコンのハードが、WindowsVistaに追いつかないという点で。おそらく、5年経っても、状況は変わらないだろう。それどころか、WindowsVistaが引退するまで、この状態が続く可能性もある。つまり、WindowsVistaに存在価値はない(失礼)。こんな大それた予言をする根拠は2つある。

1つは、WindowsVistaが巷の風評をはるかに超えて、強力な3D機能が必要なこと。2つめに、パソコンの主流がノートPCに移り、それが今後も加速すること。この2つの要因は互いに深く結びつき、WindowsVistaを史上最悪のOSへ追い込んでいる。先ず、3D機能。3D機能とは、物体を3次元で描画する機能で、3次元グラフィックスともよばれている。現在、ゲームソフトや3DCGソフトで利用されている。ゲームは3Dの方がインパクトがあるし、3DCGソフトは元々、3次元グラフィックを制作するツールなので、3D機能は必須だ。ところがWindowsVistaはただのOS。なぜ、OSに3Dが必要なのか?

ここで、OSの役割を考えてみよう。パソコンは、同時に複数のアプリケーションソフトを動かすことができる。たとえば、セキュリティソフト、ウェブブラウザ、メールソフト、ゲーム。そのため、CPU、メモリ、ハードディスクなどのハード資源を、複数のソフトで共有する必要がある。この共有の手配をしているのが、OSだ。だから、OSはあくまで、黒子。

では、なぜ目に見える3次元グラフィックスが、OSに必要なのか?Windowsは他のOSにない特殊な事情があるからだ。パソコンで稼働するOSは他にもある。たとえば、UNIX。アメリカのAT&Tのベル研究所が開発したOSで、血筋がよく、動作も安定している。OSとしての歴史が長く、金融機関などクリティカルな現場で使用されている。また、UNIXと互換があり、サーバー機でそれなりのシェアをもつのがLinuxだ。こちらは、フリー(タダ)のOSとしても有名で、Googleの検索エンジンの巨大サーバー群にも使用されている。

この2つのOSは、いずれも、OS本来の機能しか持たない。そのため、ユーザーインターフェースは質素を極める。何をするにも、キーボードに向かって、呪文のような文字列を打ち込む必要がある。一方のWindowsは、OS本来の機能にくわえて、グラフィカルユーザーインターフェース(GUI)を備える。このグラフィカルユーザーインターフェースを3次元にまで拡張したのが、WindowsVistaのGUI「Aero」だ。じつは、ここに3D機能が使われている。見てくれは良いだろうが、問題は費用対効果

Aeroは、ウィンドウのフレームが半透明になるし、影まで付いている。また、複数のウィンドウを3次元で表示し、すべてのウィンドウを一望できる。だから?と言う声が聞こえてきそうだが、問題は別のところにある。見てくれはいいが、高くつくのだ。強力なCPU、膨大なメモリ(2GB?)、そして、強力な3Dチップ・・・3Dチップとは、3D処理用のチップで、GPUとも呼ばれている。

CPUはパソコン全体の処理を担当、GPUはグラフィック担当、という棲み分けだ。昔のGPUは、2D機能しかなかったが、今ではすべて3D機能を搭載している。ところが、GPUは機能と速度に大きな差がある。ハイエンドなGPUとチープなGPUでは、実行速度で50~100倍の差がある。これはカタログ数値ではなく、体感速度。CPUでは考えられないほどの差だ。そして、WindowsVistaはこのGPUを直撃する。つまり、GPUの性能によって、WindowsVistaユーザーは、天国と地獄に振り分けられるのである。

■Vista対応のウソ

パソコンにGPUを実装する方式は2つある。GPUは、画面情報を格納するメモリが必要だが、専用のビデオメモリを持つ方法と、メインメモリを使い回す方法がある。メインメモリとは、CPUが使用する記憶装置だ。当然、専用ビデオメモリをもつ方が、より高速に動作する。一方、後者は専用ビデオメモリが不要なので安く上がる。このタイプは、「チップセット内蔵GPU」と呼ばれ、低価格なデスクトップPC、スペースが限られるノートPCで採用されている。

識者の多くは、WindowsVistaをスムースに動作させるには、強力なGPU(3Dチップ)を積んだビデオカードが必要だ、と言っている。ビデオカードとは、パソコンの拡張スロットに挿入する画像処理専用の拡張ボードである。大容量の専用ビデオメモリを備え、高い3D処理能力をもつ。

一方、安価な「チップセット内蔵」タイプでは、GPUは拡張ボードはなく、メインのマザーボードに実装される。そのぶん、価格はチープだが、能力も負けず劣らずチープである。一方、これに反論するユーザーもいる。強力なGPU?最新のパソコンなら、「チップセット内蔵のGPU」でもVista対応をうたっている。

であれば、ノートPCでも十分動作するはずだ。多少重いだろうが、使い物にならないなんて、ただの知ったかぶりだろう。だいたい、まともなパソコンメーカーが、偽って「Vista対応」をうたうはずがない!さて、どっちが本当?個人的な感想だが、現在のパソコンの「Vista対応」は”まやかし”だと思っている。多少重いなどというレベルではない。

確かに、ネットサーフィンやメールで使うぶんには、重いなぁ、ですむかもしれない。だが、総天然色カラーTVをうたっておいて、一部の色は出ないけど我慢してネ、ですむだろうか。「Vista対応」をうたうからには、WindowsVistaの機能のほとんどが実用レベルで使える必要がある。

そこで、最新のマシンで、「Vista対応」をテストした。このマシンは誰もが知る巨大メーカーのノートPCで、もちろん、「Vista対応」をうたっている。ノートPCとはいえ、Maya、StudioMaxなど有名な3DCGソフトの利用を前提としたワークステーションだ。当然、チープな「チップセット内蔵」タイプではない。専用のビデオメモリを備え、ノートPCにしては強力なGPUを搭載する。しかも、CPUはデュアルコア、メモリは2GB、かなり、ハイエンドなノートPCだ。

■Vista対応マシンをテストする

「Vista対応」のキモは、3D機能にあり、その核心は「Direct3D10

「Direct3D10」は、3Dを処理するための基本的なプログラム群で、前バージョンはDirectX9.0だった。もし、この「Direct3D10」の機能がすべて動作すれば、正真正銘「Vista対応」といえる。そこで、マイクロソフトのサイトから、最新版の「DirectXSDK2007年2月」をダウンロードし、15本のサンプルプログラムを選び、先のハイエンドノートPCでテストした。

結果、15本のサンプルプログラムのうち、13本が「大変遅く動作しますが、実行しますか?」と聞いてきた。しないと始まらないので、「はい」を選ぶと、結果は警告どおり、使い物にならないほど遅い。中には、5分たっても起動しないものもあった(業を煮やして中断)。また、1本は「ハードウェアデバイスが作成できません」と警告してきた。意味が分からないわけではないが、一体どうしろと?

結局、サンプルプログラム15本のうち、14本がまともに動作しなかった。では、1本だけ動作した?ノー!このサンプルは画面に何も映らない。プログラマーが利用する空のテンプレート(型紙)だったのだ。何もなければ、処理が重いも軽いもない。以上が、「Vista対応」のテスト結果。さて、これを「Vista対応」とうたっていいのだろうか?テストに使ったノートPCのメーカーは評判が良く、個人的にもお気に入り。コストパーフォーマンスが高く、故障も少ないので、20年間、個人と会社で愛用している。このようなメーカーにしてこれ。

マイクロソフトがWindowsVistaをリリースした現在、新しい機種はすべてWindowsVistaがプレインストールされる(一部を除く)。今となっては、「このパソコンはWindowsVistaに対応していません」とは、口がさけても言えないのだろう。では、パソコンメーカーに文句を言うべきでは?たぶん、ムダ。こんな答えが返ってくるだろうから。「Vista対応とは言ったが、完全対応とは言っていない」では、誰の責任?ハードウェア技術が追いつかないことを知りながら、WindowsVistaを世に送り出したマイクロソフトが悪いのか?狡猾なマイクロソフトも、答えをちゃんと用意している。「Aeroを無効にすれば、今のパソコンでも十分動作しますよ」おいおい。

■WindowsVistaとノートPC

話が長くなったが、先の大それた予言の第2の根拠。日本では、ノートPCの比率がデスクトップPCを超えたが、これは世界の潮流でもある。だから、今後は、「パソコン=ノートPC」一方、ノートPCは軽くて小さいが取り柄なので、部品の数は少ない方がいい。ここで、単純な疑問がわく。「Vista対応=Direct3D10」をフルに満たすような強力なGPUが、コンパクトなノートPCに載るのか?

2007年3月現在、「Vista対応=Direct3D10」をフルサポートするGPUが、地球上で1つだけ存在する。NVIDIAの「GeForce8800シリーズ」だ。複雑を極める「Direct3D10」をフルサポートすることも凄いが、その実体もまた凄まじい。GPUのメイン部品はトランジスタだが、その数は6億8,100万個・・・旧バージョンの2.5倍。インテルの最新CPUでさえ2億~3億個なのに。

このGPUは、専用のビデオメモリを装備するが、容量はチープなGPUの10~20倍。これだけ大規模なGPUを動作させるには、多数の周辺部品も必要で、当然、専用のビデオカードが必要だ。もちろん、部品数が多いほど電力も食うし、発熱も大きい。大がかりな冷却機構が欠かせない。実際、GeForce8800が実装されたビデオカードを見ると、巨大な冷却ファンがカード全体を覆いつくしている。見るからに異形。しかも、このビデオカードは拡張スロットを2つ占有する。こんなものが、ノートPCに収まるとは思えない。

あと、5年経っても。WindowsVistaには、「Vista対応」以外にも問題がある。WindowsVistaの製品ラインナップ・・・1.ホームユースの廉価版「HomeBasic」2.豪華版の「HomePremium」3.ビジネスユーザー向けの「Business」4.最高グレードの「Ultimate」棲み分けがわからん。しかも価格は、約27,000円~52,000円。パソコン一式60,000円で買える時代でこれ?

マイクロソフトは、WindowsVistaが半透明や影だけでなく、セキュリティ面も強化されたことを強調している。もちろん、ウソではないだろうが、セキュリティは威張るたぐいのものではなく、あって当然の機能なのだ。WindowsVistaは、組み込まれた技術の高さ、それに追いつかないハード、目的と効果のあいまいさ、ラインナップの不明瞭さ、高い価格設定・・・なにもかもがチグハグなのだ。ユーザーの利便性を第1に考え、高度なバランスを保ってきたマイクロソフトの製品とは思えない。

《つづく》

by R.B

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