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 週刊スモールトーク (第93話) 夢診断T〜予知夢と夢占い〜

夢診断T〜予知夢と夢占い〜

■夢の謎■
 夢の世界において、われわれは物の形の直接的な理解を楽しむ。あらゆる形相がわれわれに語りかけてくる。どうでもよいもの不必要なものなど何一つない

  〜ニーチェ〜

 毎日、世界中の人が夢を見ている。地球上で生まれる夢のシナリオは毎日66億本。現実世界に匹敵する壮大な世界だ。ところが、夢は、一人一人の脳の中でリアルタイムに再生され、そのまま消えていく。しかも、覚醒時には、その大半が記憶にも残らない。夢はたわいもないものであり、われわれが生きる現実世界にとって、無用のように思える。ところが、心理学者ユングは、夢は現実世界と密接な関係にあり、相互に影響を与えていると説明した。つまり、夢世界と現実世界とは一心同体だと。

 夢は、誰もが経験できる身近なものだが、謎は多い。その一つが、予知夢。読んで字のごとく、未来を正確に言い当てる夢だ。ここで言う『予知夢』とは、解釈によっては予言になるという曖昧なものではなく、夢と未来が完全に一致するものを指す。SFやオカルトではおなじみだが、中には真実としか思えない『予知夢』もある。

 夢のもう一つの謎は「人はなぜ夢を見るか?」である。睡眠は、本来、覚醒時の疲れをとるためにあるが、夢を見ればその分、眠りが浅くなり、疲れがとれにくい。つまり、夢は、眠り本来の目的に反している。夢を見るのは、何か他の理由があるはずだ。かつて一世を風靡したTVドラマ『Xファイル』に、それを示唆するエピソードがある。エピソードNo.28『不眠(Sleepless)』。

 軍事作戦においては、兵士の睡眠は害あって益なし。そこで、アメリカ国防省は、医学的処理により、眠らない兵士をつくりあげた。疲れず、睡魔にも襲われず、1日24時間無休で作戦遂行できる兵士。だが、やはり、問題があった。
元兵士:      「20年間、一睡もしてないんだ」
モルダー捜査官:「それで、疲れないのか?」
元兵士:      「疲れない。でも、こんな人生、もう終わらせたいんだ」

 このシーンを見たとき、ふと思った。もし、人間に睡眠も夢もなく、かたい現実だけがとぎれることなく、何十年も続いたとしたら…自分なら、たぶん、気が狂うだろう。そしてこうつぶやく、
「こんな人生、もう終わらせたいんだ」
味気ない現実の合間に、刺激的で空想的な別世界『夢』を見せられることで、人生が続けられるのではないだろうか?

 このような謎に満ちた夢分析の理論的バックボーンとして、すでに歴史的名声を得ているのが、『フロイトの心理学』と『ユングの心理学』だ。特に、ユングの心理学では、心理学全体を論ずる上で、夢に大きなウェイトをおいている。夢の深層心理を分析することで、心の全体像を理解しようというのである。そこで、ユングの心理学をよりどころにし、様々な例をあげながら、夢の謎に迫ってみる。

■予知夢(殺人)■
 まずは、予知夢。初めに例として取り上げるのは、驚くほど完全な予知夢である。出所は、大学の講義録を元にまとめられたユングの心理学入門書(※)で、以下、その要約。

 S夫人は、夢の中で、自分の息子が見知らぬ人と、どこかの崖にいるのを見た。やがて、息子は、崖からすべり落ちる。S夫人は、見知らぬ人に向かって、
「どなたですか?」
と尋ねると、その人は、
「へンリー アーヴィンです」
と答える。そこで、
「アーヴィンって、俳優のアーヴィンですか?」
と聞くと、
「いや、俳優ではありませんが、似たような職業です」
という。
 夢から覚めた彼女は、息子のことが急に心配になる。そこで、その夢を、兄に話すが、笑いながら大丈夫だと言う。ところが8日後、彼女は、自分の息子が、ある崖の上で殺されたことを知る。彼女はその場所を訪れ、そこで、息子が殺されたときに居合わせたという人物に出会う。彼女は、その人が夢で見た見知らぬ人だと思い、名前を尋ねると、
「ヘンリー デべレルというが、コンサートで歌を歌ったりしていて、そのときは、ヘンリー アーヴィンと名のっていた」
と告げる。

 この夢は、8日後の息子の死のみならず、そこに登場する人物の名前まで正確に言い当てている。出来事と名前が完全に一致していて、解釈が入り込む余地がない。恐ろしい予知夢だ。正確な計算はできないが、このようなことが偶然に起こる確率は、ゼロに近いだろう。むろん、原因さえ特定できれば、偶然ではなく必然となる。つまり、確率ゼロの偶然に原因をもとめるよりは、必然の原因を探したほうが、より科学的といえる。問題は、その原因だが、ユングの心理学入門書(※)の中には、その答えは記されていない。そのヒントとなる記述がもあるが、それは後で述べる。

■予知夢(死)■
 次に、自分が体験した予知夢らしき夢。中学生の頃から、日記をつける習慣があったので、その日の夢を正確に再現することができる。以下、その日の日記。

<****年6月22日>今朝6時、○○会長が亡くなられた。昨日、夢の中で会長が現れて、
「いやあ、××くん…」
と声をかけられた。なんの夢だか忘れたが、この一言でおれは許して貰えたと、夢の中で思った。肩の荷が下り、解放感に満たされ、信じられないような安らぎを得た。かわいがって貰ったのに、辞めてしまって、後足で砂をかけるたような気がして、潜在意識の中で引け目を感じていたのかもしれない。

 日記の中の○○会長とは、以前勤務した会社のオーナーである。この夢を見る2ヶ月前、自己都合でこの会社を退職したが、そのとき、会社と会長に対して、非常な引け目を感じていた。会社には自分が立案した新事業をやらせてもらった上、事業が閉鎖に追い込まれた時も、責めを負うことはなかった。また、会長には目をかけていただき、様々のアドバイスもいただいた。つまり、この会社には良い思い出しかなかったのである。このような状況で見たのがこの夢だった。

 ユングは、「夢のもつ最大の意義は、意識に対する補償作用である」といっている。つまり、現実世界で起こる問題を、夢が補ってくれるというのである。先の夢は、会長に許しを乞いたいという強い願いが、夢の中で叶えられた。つまり、夢の世界が現実世界を補償したのである。ユングの心理学では、このタイプの夢は『単純な補償』として分類されている。先の夢はまさにこのタイプであり、夢分析としては一件落着だ。ところが、この夢には一つ謎が残っている。会長が亡くなられた時間と、夢を見た時間の奇妙な関係だ。ここに、予知夢の可能性が潜んでいる。

 この夢を見ていたのは、6月22日の午前1時〜3時、会長が息を引き取ったのは同じ日の午前6時。つまり、会長が亡くなる数時間前に、この夢を見たことになる。人生の長大の時間軸の中で、なぜ、この瞬間なのか?ただ、この夢を見るには、最も効果的かつ劇的なタイミングだったことは間違いない。この日、この夢を見て目覚めた後、3時間後に会長の死を知らされたが、瞬間、脳がフリーズした。
 自分の内部世界の何かが、この夢のシナリオを書いたのだが、このタイミングをはかるには、会長が死ぬ時間を正確に予知する必要がある。そして、この夢では、それが的中した。誤差は数時間。この夢には、『単純な補償』の他に『予知夢』も内包しているのかもしれない。

■予知夢(光景)■
 次に、過去に目撃した予知夢。20年ほど前、朝一番で、数人が集まり一つのテーブルについた。その時一人が、
「あれっ…」
と言った後、顔が徐々にこわばっていく。同席者の一人が、
「どうかした?」
と声をかけると、
「この場面と全く同じシーンを、昨夜、夢で見た」
と言う。同席しているメンバーも、服装も、周囲の様子も、何もかもが夢と全く同じだと言うのだ。
繰り返している…
呆然としてつぶやいたこの言葉に、周囲が凍りついた。古くから見知った仲間であり、シャレや冗談ではないことは一目でわかった。

 この予知夢の特徴は、予知された事実が重要な意味を持たないこと、夢と現実が、「写真のように一致」していたことである。映像は、文字などに比べ、情報量が膨大なため、寸分違わぬレベルで、偶然一致することはありえない。夢を製造する何かの仕組みが、数時間後の未来の光景を写し取り、夢で再現したとしか思えない。非常に単純な夢にもかかわらず、予知夢の本質をついている。つまり、人間の内部世界の何かが、未来を見ることができるのだ。

■夢のしくみ■
 ユングの心理学によれば、人間の心には、意識と無意識があるという。意識とは、自分で感知できる心の状態をいい、無意識はそれができない心の状態をいう。さらに、無意識は、個人的無意識と普遍的無意識に分けられる。
 個人的無意識は、個人によって異なり、忘れられたか、意識によって抑圧されたか、いずれにせよ、自分で感知できないものをいう。例えば、あまりにも悲惨な体験の場合、それを事実として受け入れられないことがある。結果、この悲惨な体験は意識によって抑圧され、どうしても思い出すことができなくなる。つまり、個人的無意識の世界は、意識世界で敗れ去った価値観、思い出したくない記憶のたまり場なのだ。

 一方、普遍的無意識は、地球の全人類に共通する無意識である。はるか昔、人類が歴史の第一歩を踏み出した頃、各部族は互いに地理的に孤立し、交流はなかった。にもかかわらず、地球上では、同じような文化が多数生まれている。太陽など自然を神として崇拝する習慣は世界中に見られるが、これも普遍的無意識による。
 太陽は、意識世界では、光り輝く円に見え、普遍的無意識には神のような超越的存在に見える。普遍的無意識が見た太陽の神は、夢をとおし、意識化され、現実世界の宗教を形成していく。これが、世界中の地域で、交流がないにもかかわらず、同じ神が生まれた理由である。

 だが、こんなレベルでは、予知夢を説明することはできない。そこで、人間の心の構造を一度整理してみよう。まず、人間の心の表層には意識、その下に個人的無意識、さらにその下には普遍的無意識がある。この中で、自分が感知できるのは、意識のみ、つまり、それより下の無意識は直接知ることはできない。そして、意識と無意識をつなぐのが心像である(※)。

■心像と象徴■
 『心像』とは、人間の心に投影されたイメージで、意識と無意識の状態を集約したものである。とすれば、本来感知できないはずの無意識も、この心像を通して見ることができるはずだ。自我が直接アクセスできない禁断の無意識世界をのぞき見る、なにやら、ゾクゾクするが、その方法は意外に簡単だ。布団に入り、目をつむるだけ。つまり、夢の中で映し出されるイメージこそが心像である。

 ユングの心理学によれば、心像にはもう一つの特徴があるという。創造性である。例えば、研究者がスランプに陥ったとき、何も考えられなくなり、思考も研究も停止する。この状態では、心的エネルギーは意識世界から無意識世界へ逃げ込んでしまい、無意識に支配された結果、意味不明の行動になる場合もある。そのまま終われば、この研究者の人生は、そこで破綻する。

 ところが、自我(意識)が崩壊する一歩手前で持ちこたえていると、意識と無意識を統合した心像が現れることがある。この心像により、自我(意識)は心的エネルギーを取り戻し、以前にも増して、エネルギッシュに研究活動を開始する。このように、創造性をもたらす心像を象徴という。ユングは、この象徴を人間本来がもつ超越的機能と呼んで、重視した(※)。

 以上が、人間の心にからむ基本的な部分である。整理すると、次のようになる。人間の心には意識と無意識がある。自我が感知できるのは、意識のみ。一方、意識と無意識の集約化されたイメージとして心像が存在し、それは夢で見ることができる。つまり、夢をとおして無意識を知ることができるのだ。この心像の中で、創造性の高いものが象徴で、人間の現実世界にも大きな影響力をもっている。
 準備ができたので、いよいよ、予知夢のカラクリを解明しよう。

■予知夢のカラクリ■
 偶然と必然。予知夢を科学的に説明するために、偶然をもちだすのは簡単だが、起こりうる確率が低すぎて、むしろ非科学的になる。科学的に証明するには、必然が必要だ。先のユングの心理学入門書(※)でも、
「われわれとしては、(予知夢が)やはり存在するものは存在するものとして認め、ただ、それについての説明を急がぬことが大切であると思う」
という程度にとどめている。学者の視点からみて、予知夢の存在は認めるが、無理に説明しようとすれば間違った結果を生む、というニュアンスだ。つまり、原因は不明である。

 とはいえ、問題はそれほど難しいとは思えない。コインの裏表を当てるゲームで、表が20回連続して出たとすれば、誰もがインチキだと確信するだろう。偶然ではなく、必然のカラクリがあるはずだ、と。そもそも、表が20回連続して出る数学的確率は100万分の1。だが、先の『予知夢(殺人)』で、名前が的中する確率だけとらえても、この確率よりはるかに低い。つまり、必然=カラクリが潜んでいるはずだ。

 予知夢は、人間の脳、より具体的には、心が生みだす世界である。夢の一つのように見えるが、ひょっとすると、似て非なるものかもしれない。通常見る夢は、自分の心の内部世界が投影されるが、予知夢は外世界の客観的事実を投影しているからだ。この点で、決定的な違いがある。

 結論からいくと、予知夢を生む可能性は2つある。一つは、心自らが、未来の映像を創り出すこと。もう一つは、すでにある未来の映像を写し撮ること。つまり、『シミュレーション型予知夢』と『多次元世界型の予知夢』である。むろん、これは先のユングの心理学入門書にはのっていない、オリジナルの仮説だ。むろん、わかりもしないことを無理矢理結論づけるつもりはない。
「アヒルのように鳴き、アヒルのように歩けば、それはアヒルである」
言いたいのはそれだけである。

■シミュレーション型 予知夢■
 シミュレーション型の予知夢は、『天気予報』と同じ原理である。昔、気象庁が発表する天気予報は、哀しいほど当たらなかった。そもそも、日本では晴れの日が60%を超えるので、「明日の天気は晴れ」と宣言すれば 60%が的中する。昔の天気予報の的中率は、その程度だったと記憶している。また、昔、魚群探知機やソナーの開発をしていたことがあり、実験のため漁場に行くことがあった。そこで、ベテラン猟師の天気予報の的中率はほぼ100%だと、さんざん聞かされた。つまり、気象庁が発表する天気予報は何の意味もなかったのである。

 ところが、現在では、『明日の天気予報』は、ほぼ的中する。予測と言うよりは予知にちかい。だが、予知夢とは違い、そのカラクリは誰もが理解できる。シミュレーション、つまり、未来を計算によって創り出しているのだ。
 まず、地球上の大気を格子状に分割し、格子ごとに、気圧、風向き、風速、温度、湿度などの気象データを設定する。つぎに、現在の気象データを元に、物理の法則を適用し、明日の気象データを格子ごとに計算するのである。問題は、論理の難しさより、計算量にある。そのため、気象庁では、世界一高速な数値予報用のスーパーコンピュータを運用している。これが、『天気予知』の正体である。

 この天気予知は、世界を支配する物理法則と、強力なコンピュータがあれば、シミュレーションで未来を予知できることを示唆している。もし、予知夢がシミュレーションの産物なら、人間の脳コンピュータにも同様の計算能力が必要となる。ところが、先の『予知夢(殺人)』のような未来映像を創り出すためには、恐ろしい計算量が必要だ。むろん、適用する物理の法則も思い当たらない。

 それとも、脳は別の方法で未来映像を創り出しているのだろうか?人間の脳は、スーパーコンピュータのような計算には適さないが、パターン認識ではスパコンを凌駕する。人間の顔は、せいぜい30cm四方の大きさで、その中に2つの目と鼻と口があるだけだ。これだけのパーツの違いだけで、人間は世界の60億を超える顔を瞬時に見分けることができる。とはいえ、このようなパターン認識力が、予知夢につながるとも思えない。

■多次元世界型 予知夢■
 予知夢のもう一つの可能性は、すでにある未来の映像を写し撮ること。未来の映像が、今存在する?まるで、タイムマシンの世界だが、これを肯定する科学者たちもいる。この仮説によれば、『時間の流れ』は幻想に過ぎず、過去、現在、未来、いずれも等しく現実として存在しているという。まるで、SFの多次元世界だ。だが、もし本当だとすれば、「未来は現在も存在している」わけで、のぞき見ることも可能なはずである。問題は、人間の心がそれをどうやって写し撮るかだ。

 高校の化学の時間、面白い話を聞かされた。ベンゼン分子は、ベンゼン環という独特の六角形構造をもつが、ドイツの化学者ケクレは、それを夢の中で思いついたという。その夢とは、一匹の蛇が自分の尾を呑み込むというものだった。一方、ヘビが自分の尾を呑み込む心像はウロボロスと呼ばれ、古来からシンボルとして用いられているという(※)。つまり、先に述べた人類共通の普遍的無意識に属している。そして、その産物であるウロボロスが、現実世界のベンゼン環を示唆したとすれば、間接的な予知夢ともとれる。いずれにせよ、ベンゼン環が歴史的に知られているのは、科学的意義よりも、発明のプロセスによっている。

 何が言いたいのか?普遍的無意識は、地球上の人類共通の無意識だが、人間のみならず、この世界のすべての事象を共有する太母(グレートマザー)だとしたら?インターネットが、世界中のすべての情報を共有する『情報のグレートマザー』であるように。
  さらに、『普遍的無意識 グレートマザー』が、先の多次元世界の仮説で予言された過去、未来の時空まで共有し、それを引き出すことができるとしたら?未来を知る『普遍的無意識 グレートマザー』が未来を写し撮り、それが予知夢となる…あくまで仮説だが、確率ゼロの偶然よりは説得力がある、とは言い過ぎだろうか?

《つづく》

参考文献:(※)河合隼雄 著 ユング心理学入門 培風館

by R.B


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